漫画『葬送のフリーレン』に感じた「静かさ」の魅力

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2023年9月29日金曜ロードショーにて、アニメ第1話~第4話が約2時間に渡り放映されるという異例のスタートをきった大人気作品「葬送のフリーレン」。

この記事は、そんな人気作品「葬送のフリーレン」の原作マンガを読んだ感想となります。私の感想に少しでも共感いただけた方は是非コメントをよろしくお願いいたします。

「葬送のフリーレン」基本情報

原作:山田鐘人
作画:アベツカサ
出版:小学館
掲載:週刊少年サンデー
期間:2020年~2023年現在連載中
公式サイト 原作 アニメ

「葬送のフリーレン」あらすじ

物語は勇者ヒンメルとその3人の仲間達が魔王を討伐した後から始まる。

主人公「フリーレン」は魔法使いとしてヒンメル達の冒険に同行していた。冒険は10年という長きに渡ったが、悠久の時を生きるエルフのフリーレンにとってはほんのわずかなものだった。冒険を終えたフリーレンは「50年後に会いに来る」と少しだけ留守にでもするような調子でヒンメル達と別れ一人旅立つ。

そして50年度、再会した仲間達はフリーレンの想像以上に老いていた。再会を喜び、本当に短い最後の冒険を共にした後、ヒンメルは息を引き取る。

ヒンメルの葬儀の最中、わずかな時間だと思っていたヒンメル達と過ごした日々を思い出し、フリーレンは後悔する。

「人間の寿命は短いってわかっていたのに、どうしてもっと知ろうと思わなかったんだろう」

他者に、人間に無関心だったはずのフリーレンは大粒の涙を流していた。そしてフリーレンは決意する。

「私はもっと人間を知ろうと思う」

勇者ヒンメル達との足跡を辿りながら、彼女の「人間を知るための旅」が始まる。

このマンガは「静かだ」

私が最初にこのマンガを読んだときの印象は「静かだ」でした。他のマンガにあるような音が、このマンガからは感じられなかったのです。

けれど退屈ではない、むしろこの「静かさ」が心地良いと感じられました。

剣と魔法のファンタジー世界を描いた作品で、このような「静かさ」を感じた作品は記憶になく、読み始めてすぐにその新鮮な「静かさ」という体験の虜となったのです。

「静かさ」の正体

この「静かさ」の正体は何なのか。じっくりとマンガを観察してみたところ気づいたことがあります。

「葬送のフリーレン」では、他のマンガ作品で多用される「マンガ表現」が極端に少ないのです。

例えば、効果音を直接表現できる「書き文字」や迫力ある動きを演出する「効果線」など最小限しか使われていません。

また、登場人物はマンガのキャラクターらしくデフォルメされた美しいデザインをしていますが、彼らの人物描写はかなり写実的です。コミカルな動作はほとんどなく、戦闘など特殊な状況でない限りは「普通に立っている」姿が多く、かなり現実的で自然な描かれ方をしています。

話す姿も淡々とした印象で、セリフの勢いを表現できる「吹き出し」の書き分けも少なく、そもそもセリフが全くない場面も多くあります。「漫符」と呼ばれる登場人物の心情を表現する手法もほとんど見られません。感情表現、立ち振る舞い、どれも写実的で現実の人間に近いものを感じました。

私はマンガを「動画のコマ送り」を物凄く荒くした映像表現だと思っています。そして各コマはまさに動画を一時停止して切り取ったものです。

しかし、私が「葬送のフリーレン」から感じたのは、まるで「写真」のようでした。

最も美しい瞬間を切り取った写真を効果的につなげることで時間の流れを想像させる演出。動画のようなスピード感はない、しかし緩やかに流れる情景からは確かに躍動感ある映像を感じることができるのです。また、丁寧に描かれた背景がそれをより強く感じさせる要因になっていると感じました。

「緩やかさを感じる場面の移り変わり」と「写実的な人物描写」が合わさることで、「葬送のフリーレン」は独特の「静かさ」を生み出しているのだと思います。

「静かさ」が生み出す魅力

「葬送のフリーレン」が持つ「静かさ」は読者に魅力的な体験を提供してくれています。

物語序盤ではヒンメルの死後年月が凄まじい早さで過ぎていきますが、「緩やかさを感じる場面の移り変わり」がこの時間の流れを唐突に感じさせず、どこか哀愁を感じさせてくれます。

また、登場人物のわずかな心情の変化を感じ取りやすくしていることも「静かさ」の魅力です。普段は感情の起伏が少ない彼らのわずかな変化を読者は敏感に感じ取りやすくなっています。むしろ、この「静かさ」を活かすために感情表現が豊かな騒々しい登場人物を描いていないのかもしれません。

「葬送のフリーレン」の作品全体がもつ「心地良い静かさ」は、凄まじい物語の「緩急」を生み出し、読者に大きな感動を与えてくれているのです。

主人公「フリーレン」

「葬送のフリーレン」の主人公フリーレンは、まさに「静かさ」の魅力がつまったキャラクターです。

近年、感情の起伏に乏しく圧倒的な力を持ったキャラクターが主人公の作品は多くなっています。「ワンパンマン(集英社)」はその代表格といえるでしょう。一方でキャラクターを無機質に感じやすくなっている作品も多くあります。

けれど、フリーレンは人間的な魅力を強く感じられるキャラクターです。それは物語序盤、仲間達の前で涙を見せるシーンがあるからです。

物語を通じて、フリーレンが大きく感情を乱したのは今のところほとんどありません。フリーレンは細かな表情の豊かさは見せるものの、基本的に感受性に乏しく淡泊な性格をしています。

けれど、最初に感情を大きく露わにするシーンがあったことで、フリーレンからは人間らしさを感じやすくなっています。物語構成の妙ともいえますが、フリーレンが人間を知ろうとしていること、人間を想って泣ける感情があることを読者は知っているのです。だからこそ、読者は常にフリーレンが持つ「静かさ」の裏にある心情を感じ取ろうとします。

フリーレンが持つ「静かさ」が、読者を惹きつけ理解したいという欲求を刺激する魅力的な体験を生み出しているのです。

アニメ「葬送のフリーレン」

最後にアニメについても少しだけ触れたいと思います。この記事を執筆している時点でアニメは第五話まで進んでいます。戦士シュタルクが登場した回ですね。

アニメも漫画が持つ「心地良い静かさ」を尊重してくれているようで好感を持っています。大きな時間の跳躍も緩やかに感じられ、とても素晴らしいと感じました。

個人的にアニメ第三話で登場したクヴァールの声にエコーがかかっていたことが「アニメ的すぎる」と違和感がありましたが、全体的に最高のアニメ化だと思っています。

毎週金曜日夜の楽しみができて生活に豊かさが増えました。これからも原作とアニメ双方を応援していきたいと思います。

あとがき

最後までお読みいただきありがとうございました。この記事の内容は筆者個人の考察に基づいたものです。

ご意見ご感想がありましたらページ下部のコメント欄に是非お書きください。また本記事について各SNSで「#ゲームデザイン思考」をつけて投稿いただけると幸いです。

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