ゲームデザイン思考のはじまり

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当サイトが体系化しようと試みている「ゲームデザイン思考」とは何なのか。
ゲーム製作だけではなくビジネスや生活にも応用できる可能性を秘めたこの思考法の「はじまり」と「目指すこと」について記したいと思います。

ゲームデザイン思考のキッカケ

始まりは自分でゲームを作ろうと思ったことでした。

低予算で容易に試作品を作れるカードゲームのアイディアを検討していく中でゲームデザインに関する基礎的な知識が不足していると感じた私は、複数の有名ゲームクリエイターの著書や記事を拝読し知見を深めようとしたのです。

彼らから得られた知識は素晴らしいもので、私のゲーム製作活動において大きな助けとなりました。

一方で、優れたクリエイターの皆さまが提唱するゲームデザイン論の中には、私の中で消化しきれないものも多くありました。一貫しているように見えた各理論も比較すると矛盾を感じたり、各自の用いる言葉の意味や表現が異なるため真意を理解することが難しかったりとその要因は様々です。

これらをどうにか自分の中に綺麗に落とし込めようと思考を巡らせいくにつれ、いつしか「ゲームとは何か」という哲学めいた根本的な疑問が自分の中で大きくなっていったのです。

この膨れ上がった疑問は私自身にとって耐えがたいものとなっていました。

この形容しがたい不快感を解消するため、私は様々なクリエイターの皆さまが異なる表現で展開していたゲームデザイン論を自分なりの共通言語で統一し、可能な限り既存の様々なゲームデザイン論と矛盾しないものとなるように整理をしていきました。

その結果、自分の中で「ゲーム」というものが明確に定義され、それに付随する理論を展開していくことができるようになっていました。

ゲームデザイン思考の体系化への取り組み

ゲームデザインとはそれ自体が学際的な取り組みだと考えています。

高揚感を生む映像、感情を揺さぶる音楽、没入感を高める物語、好奇心を刺激するシステムやメカニクス、魅力的なアートワーク、理解を補助するUIデザインなど、膨大な知識や技術を結集しゲームデザインは行われています。

多様な分野の知識と技術が入り乱れるゲームデザインという取り組みへの理解を深めるため、まずはこれらの情報を整理し、可能な限り体系化することを目指しました。

体系化を進めるために最初にしたことは、ゲームデザインにおいて曖昧なままとなっている既存の言語や表現を再定義することでした。

「ゲーム」「ゲーム性」「ゲーム要素」「クリエイター」「プレイヤー」「面白さ」「楽しさ」「感動」といった誰もが当たり前に使う表現でありながら、個人によって捉え方や用法の異なるものを再定義し、これらを可能な限り矛盾なく共存させることを試みたのです。

こうして体系化の取り組みを進め、既存のゲームデザイン論に私自身の考察を加えた結果、特徴ある理論としてまとめていくことができました。

この成果を私は「ゲームデザイン思考」として当サイトで公開することにしました。

ゲームデザイン思考の定義

ゲームデザイン思考では自身の理想を実現するために何らかの体験を生み出そうとする人のことを「クリエイター」と表現します。また、クリエイターの生み出した体験に参加してくれる人を「プレイヤー」と表現します。

課題解決の手法としてゲームのような体験を取り入れる「ゲーミフィケーション」や優れたUI・UXデザインを考案する「ゲームニクス」といった類似の理論や思考法がいくつも存在するため、これらと区別する定義を以下のように定めました。

『クリエイターの理想を実現するために、プレイヤーの主体的な力を引き出せる効果的なゲーム性を備えた体験を生み出す手法と考え方』

「ゲーム性」という言葉はゲームデザイン思考を考えていく上で非常な重要なものです。ここでは詳細を書きませんが、ゲームデザイン思考の全てと言っても過言ではありません。これから紹介していく知識や理論は全てこのゲーム性を備えた体験を生み出すために存在します。

この定義で特に確認したいのは、「クリエイターの理想を実現するために、プレイヤーの主体的な引き出す」ところです。

ゲームデザイン思考はクリエイターがプレイヤーの力を借りて理想を実現することを目指します。そのためにプレイヤーの欲求を満たす魅力的な体験を作り出すのです。言葉を変えると「自分が幸せになるために他者を幸せにする」思考法となります。

利己と利他が共存したもの。それがゲームデザイン思考です。これは、定義であると同時に今後ゲームデザイン思考を発展させていくうえでの大切な指標だとも思っています。

ゲームデザイン思考は何ができるのか

ゲームデザインという言葉から「ゲームを作る」ための思考法と思われるかもしれませんがそれだけではありません。この思考法の有用さは「あらゆる体験をゲームの構造で捉える」ところにあります。

社会は様々な「体験」で溢れています。

買い物、料理、洗濯、掃除、教育、旅行、勉強、試験、研究、営業、事務、会計、企画、会議など、これら以外にも数えきれない「体験」があります。

あらゆる体験をゲームの構造で捉え、分析し、その体験をクリエイターの理想に近づけるための思考法が「ゲームデザイン思考」です。

一例ではありますが、具体的には以下のような力を身につけることを目指します。

・自分の理想と向き合う力
・他者の心理を想像する力
・多くの人を巻き込む仕掛けを作り出す力
・ミクロとマクロの視点を使い分ける力
・物事の構造を正確に把握し課題を的確に抽出する力
…etc

ゲームデザイン思考の特徴

これまで体系化に取り組んできたゲームデザイン思考の特徴は以下のとおりとなります。

『相手起点』ではなく『自分起点』

「デザイン思考」に代表される相手を起点とした思考ではなく、自分を起点とした思考です。

相手が望むことを最初に考えるのではなく、まずは自分自身の思い描く「理想の体験」を見つけ、その後に相手へのアプローチを模索していきます。

こういったところは、アーティストの考え方をプロダクト開発に役立てる「アート思考」と似た特徴があるといえます。

『早い思考』ではなく『遅い思考』

早い遅いというのは考えるスピートの話ではなく、結論を急がないということです。急ぐ思考と急がない思考と言い換えれば分かりやすいかもしれません。感覚的な情報処理よりも論理的な情報処理を重視します。

感覚的な情報処理が悪いわけではありません。経験に基づいた直感には一定の信頼があることも事実です。「直感は7割正しい」という有名な言葉もあります。

しかしながら、直感に頼りすぎるのは禁物です。個人の思考には必ずバイアスという一定の癖が存在します。ゲームデザイン思考では直感が導いた結論以外の他の可能性に目を向ける思慮深さを身につけることを目指していきます。

大切なのは思考に「緩急」をつけることです。常に解決に至る最短距離を目指すわけではなく、ときには回り道をするゆとりをもって物事に取り組んでいきます。

『効率的』よりも『感動的』

ゲームデザイン思考では定量化することが難しい「面白さ」、「楽しさ」、「嬉しさ」、「快適さ」などといった事に目を向けていくことになります。こういった要素はときに効率的な物事の進め方や実現と相反することもあります。

効率を重視することが悪い事ではないですし、それらが感動を生まないとは思いません。あくまでゲームデザイン思考ではクリエイターとプレイヤーの感動を蔑ろにしてまで効率を追求することはないということです。

ゲームデザイン思考のこれから

ゲームデザイン思考の体系化は道半ばであり、これからもシンカ(進化、深化)し続けていく思考法だと考えています。。

無限ともいえるゲームデザインに関する知見を体系化しようすることは私自身も終わりのない無謀な取り組みだと思っています。未だに整理しきれていない情報が多く残っており、日々新たな情報に触れ、新たな疑問や考察が次から次へと湧いてくる状態です。これまで書いてきたものも、今後の取り組み次第では大きく変わることが考えられます。

しかしながら、どれだけシンカを続けようとも、この思考法は既知の知見を整理し個人の考察を加えてまとめたものにすぎません。

私は「ゲームデザイン思考」が革新的で独自性のあるものになることを目指しているわけではありません。ここで紹介された定義や理論を一般論として主張するつもりもありません。そして、自分だけでこのゲームデザイン思考を発展させていこうとも考えていません。これを読んでくれている皆さまの知見も取り入れさせていただきたいと思っています。

今後も多くの優れた人達の知見を参考にしながら、新たな情報を追加していくことになるでしょう。その成果の一端でも、何らかの理想を抱き、それを形にしようとする誰かのささやかな手助けになれたら幸いです。

私の考察を深めるため辿った先人達の足跡のように、当サイトで自分の思考の足跡を残していきたいと思います。

この取り組みは私にとってのゲーム(理想の体験)なのです。

当サイトの楽しみ方

当サイトでは、ゲームデザイン思考の記事を以下のように分類し公開しています。

基礎
ゲームデザイン思考の基礎的な考え方に関する記事
応用
ゲームデザイン思考を用いた実践的な手法の紹介記事
発展
ゲームデザイン思考を用いた様々な分野に関する考察記事

ゲームデザイン思考を深く理解したい方には基礎からお読みいただくことをお勧めしますが、応用や発展で紹介されている興味ある手法や事例のみをお読みいただいてもお楽しみいただけると思います。

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