世の中には数多くのゲームが存在し、多くのクリエイターが自分なりのゲーム像を掲げてゲーム製作を行っていると思います。そして、その誰もが「ゲームとは何か」と一度は考えたことがあるのではないでしょうか。
この記事では私の考えるゲームの定義を示したうえで、ゲームの基本構造などについて考察を深めていこうと思います。
前提
一言にゲームといっても、この言葉自体が個人によって大きく捉え方の異なるものです。そこで、私が定義しようとしているゲームが意味する範囲や留意したことを先に示します。
網羅的に定義する
私はゲームを網羅的に捉えて広義の意味で定義しようと思います。
一般にゲームと呼ばれるものに限らず、ゲームのように感じるもの、個人によって感じ方の分かれる相対的なものも含めてゲームと定義します。
この記事は極めてマクロの視点からゲームという現象を捉えるものだとご承知おきください。
クリエイターの視点から定義する
私はゲームをクリエイターの視点から定義します。
ゲームをプレイするプレイヤーとゲームデザインを行うクリエイターではゲームの見え方は全く異なるものだと考えるからです。プレイヤーの視点ではなくクリエイターの視点なのは、ゲームを俯瞰した視点から捉えやすく、より多くの要素について議論しやすくなると考えたからです。クリエイターの視点に徹してゲームの定義を考察することはあまり例のない取り組みかもしれません。
加えて、厳密さを追求しつつも理解しやすい表現を用いて定義します。必要な補足を追記しながら、可能な限り一読でその意味が誤解なく伝わることを目指します。
以上の前提のうえ、ゲームの定義と基本構造について考察していきます。
ゲームの定義
早速ですが、私は「ゲーム」を以下のように定義しようと思います。
この定義に含まれる「クリエイター」「プレイヤー」「ゲーム体験」の意味については後述します。
主体的とは、他者から強制されることなく自らの意思によって取り組む物事を選択し行動することです。そして、主体的であるためゲーム体験は自動的に実行されます。「プレイヤーの主体的な力」とは、ゲームを動かす原動力を意味し、ゲームはこの力を引き出すことで動き出します。
この定義の特徴は、プレイヤーをゲームの一部と明記していることです。プレイヤーとゲーム体験は互いに力を引き出し合う相互補完の関係にあります。基本的にプレイヤーの存在なくしてゲームは成立しないのです。また、ゲーム体験がプレイヤーの主体的な力によって自動的に実行されるものであることも重要です。
ゲームの基本構造
定義について理解を深めていくため、ここからは定義に基づいたゲームの基本構造について考察していきます。
私が考える基本構造の概略と用語、メカニズムについて解説した後、最後にゲームの定義を基本構造に照らし合わて考えていきたいと思います。
上の【図1】は基本構造の概略をクリエイターの視点から表したものです。非常にシンプルな構造に見えると思います。
まずはこの図に登場する各用語について簡単にご紹介します。
『クリエイター』
クリエイターはゲームを作りゲーム全体を管理する人です。クリエイターは一人とは限らず複数人でゲームを作ることもあります。クリエイターは何らかの成果を得るためにゲームを作ります。
『ゲーム』
ゲームは上述の定義で示すとおりですが、ここではクリエイターが何らかの成果を得るために作り出した仕組みと表現しておきます。ゲームはゲーム体験とプレイヤーで構成されます。
『ゲームコンセプト』
ゲームコンセプトはクリエイターがどのようなゲームを作るのか方針を示したものです。クリエイターは自身の掲げるゲームコンセプトを元にゲームを作ります。ただし、ゲームの設計図と表現できるほど詳細とは限りません。
『ゲーム要素』
ゲーム要素とはゲーム体験を構成する部品に相当するものです。ゲーム体験は多種多様な要素によって構成されていますが、これら全てをゲーム要素と呼ぶことにします。
乱暴な論理と思われるかもしれませんが、ゲームの基本構造を理解しやすくするためにゲーム体験を構成する全要素を一括りにゲーム要素と表現します。これは、ゲーム体験を構成する要素をさらに分類していく上で、それら全てを総称する表現があると都合が良いのも理由です。
全てのゲーム要素はプレイヤーの感覚と欲求を刺激する性質を持っています。この性質を効果的に組み合わせることで、ゲーム体験はプレイヤーの主体的な力を引き出すことができます。
『ゲーム体験』
ゲーム体験はゲームコンセプトを元にゲーム要素を組み合わせて作られる、いわばゲーム要素の集合体です。ゲーム体験はプレイヤーの主体的な力を引き出し自動的に実行される性質を持っています。
多くの人達にとってゲームとはゲーム体験を意味することと思いますが、私はゲームとゲーム体験を区別し、ゲーム体験を包括した枠組みでゲームの基本構造を捉えたいと思います。
『プレイヤー』
プレイヤーはクリエイターの作り出したゲームに参加する人達です。プレイヤーはゲーム体験に引き付けられてゲームに参加し、ゲーム体験を実行することで何らかの欲求を満たそうします。上述の定義で示すとおりプレイヤーはゲームの一部であり不可欠な存在です。
この基本構造で取り扱うプレイヤーは、ゲーム体験の内容に従い刺激された欲求のみを満たすために行動するものとします。
なお、ゲームを構成する特別な存在としてゲーム体験と分けていますが、プレイヤーをゲーム体験を構成するゲーム要素のひとつと見ることもできます。
『ゲーム性』
ゲーム性はゲーム体験とプレイヤーの間に生じる力の伝わりやすさを表したものです。「プレイヤーの力の引き出しやすさ」と「プレイヤーからゲーム体験への力の伝わりやすさ」を併せた性質を意味します。厳密さには欠けますが、「プレイヤーのやる気になりやすさとゲーム体験のプレイされやすさ」と表現したら分かりやすいでしょうか。
ゲームは基本構造を構成するものを揃えただけでは動きません。ゲーム体験がプレイヤーの感覚と欲求を刺激し、ゲーム性の生じる状態を作り上げることで初めてゲームとして成立します。
余談ですが、私がゲームとは何か考え始めたとき最初に考察したのがゲーム性でした。
ゲーム性という表現はゲームレビューやゲームクリエイターの談話などで頻繁に聞くものですが、日本独自のものであり私の知る限り海外にはありません。日本国内でも概念として何となく定着しているようでニュアンスだけが独り歩きしているように思います。
ゲーム性という表現が存在し、その正体を知ろうとしたからこそ私はゲームについて考察を深めていけたのです。私が日本人ではなかったら、こんな記事を書けなかったかもしれません。
基本構造のメカニズム
基本構造を構成するものの紹介が終わりましたので、基本構造を元にゲームが作られて動き出すまでの流れを考えていきます。ゲームの基本的なメカニズムのようなものだとお考え下さい。
【1】ゲームデザイン
最初に、クリエイターが「ゲームデザイン」を行います。ゲームデザインとはクリエイターが何らかの成果を得るためにゲームを作り出すことです。クリエイターは自身が考案したゲームコンセプトに基づきゲーム要素を組み合わせゲーム体験を作ります。
【2】感覚と欲求を刺激
次に、プレイヤーがゲームに参加します。ゲームに参加するとはゲーム体験がプレイヤーの「感覚と欲求を刺激」し、プレイヤーが「動力を出力」できる状態になることです。
プレイヤーがゲームに参加することで、ゲーム体験はプレイヤーからの力を受け取れる状態になります。プレイヤーとゲーム体験の双方が力を伝達できる状態になることで「ゲーム性」が生じます。
【3】動力を出力
続いて、ゲーム性が生じたことでプレイヤーがゲームをプレイします。ゲームをプレイするとはゲーム体験がプレイヤーの力によって実行されることです。ゲーム体験はプレイヤーから力を引き出し、プレイヤーから力を受け取れる限り実行され続けます。
【4】成果を出力
最後に、ゲームが「成果を出力」するのですが、実際に成果の出力がいつ行われるかはクリエイターの作ったゲーム体験の内容によって異なります。
クリエイターは求める成果を求めるタイミングで得られるようにゲームデザインをします。ゲームをプレイし始めた時、ゲームをプレイしている途中、ゲームをプレイし終わった後など様々です。
クリエイターは基本構造を成立させる適切なゲームデザインを行うことで、ゲームから成果を得ることができます。
以上が基本構造を元にゲームが形作られ動きだすまでの流れとなります。
基本構造のメカニズムを理解すれば、ゲームはプレイヤーという燃料によって動き続けるエンジンのように見えてくると思います。そう考えるとゲーム性とはエンジンの熱効率といえますね。そして、クリエイターはエンジンを作るエンジニアといったところでしょうか。クリエイターはこのエンジンから得られた成果という力で新たな活動を続けていくことになります。
定義と基本構造の関係
基本構造を十分にご理解いただけたでしょうか。ここまで長くなりましたが、改めて基本構造をゲームの定義と照らし合わせて確認したいと思います。
ゲームの定義を再度確認しましょう。私はゲームを『プレイヤーの主体的な力を引き出し、その力を以てクリエイターの作り出したゲーム体験を自動的に実行する仕組み』と定義しました。
確認1
定義の「プレイヤーの主体的な力を引き出し、その力を以て」は基本構造における「プレイヤー」「ゲーム性」に該当します。
プレイヤーの主体的な力を引き出すというのはゲーム性に含まれるプレイヤーの力の引き出しやすさと関係します。また、プレイヤーの力と明確に定義されているため、プレイヤーはゲームの一部としてゲームの内側に置かれています。
確認2
定義の『クリエイターの作り出したゲーム体験を』は「ゲームコンセプト」「ゲーム要素」「ゲーム体験」に該当します。
これはそのままですね。クリエイターの考案したゲームコンセプトに基づきゲーム要素を組み合わせたものがゲーム体験であり、ゲームの中に置かれています。
確認3
定義の「自動的に実行する仕組み」は「ゲーム性」「ゲーム体験」「プレイヤー」に該当します。
自動的に実行するというのはゲーム性に含まれるプレイヤーからゲーム体験への力の伝わりやすさと関係します。仕組みとはゲーム体験とプレイヤーの間にゲーム性が生じる状態のことです。
以上のとおり、やや粗雑ではありますが定義と基本構造が矛盾しないことを確認できました。
ゲームの基本構造という見慣れないものを用いて理論を組み立ててきましたので理解しにくかったかもしれませんが、クリエイターの誰もが思う「ゲームとは何か」という疑問を解決する小さな助けになれていれば幸いです。
- 1
- 2