面白さのメカニズムを考える

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「面白さ」は人間生活を豊かにし、行動を促す活力となる欠かせないものです。

しかしながら、人間の「面白さ」に対する認識は曖昧なものであり、「面白さ」がどのように生じているのか不思議に感じる人も多いのではないでしょうか。

本記事では「面白さ」のメカニズムについて理解を深め、「面白さを作る」ことだけでなく、より多くの「面白さに気づく」ためのヒントとなるような考え方まとめました。

ご紹介する内容が皆さまの創作活動や日々の生活の彩りに貢献できれば幸いです。

なお、人の心のメカニズムは解明されていないことが多く、本記事の内容は私の個人的な考察と通説を含んだものであることをご了承ください。

「面白さ」とは何か

「面白さ」とは、知的欲求が心地良く満たされることです。心地良くとは快感を意味します。

何かを知りたい、何かが気になる、そんな欲求を満たした快感を人は面白いと感じるのです。

では、知的欲求を満たすことで生じる快感とはどのようにして生まれるのでしょうか。

快感を生み出すもの

知的欲求が満たされて生じる快感には「期待」と「安心」が強く関係しています。

面白さは、何かを「期待」すること、その期待が満たされ「安心」することで生じるのです。

『期待』

「期待」とは、何かが実現することを心理的に待ち構えることです。

実は、人間は何かを期待するだけで快感を得ていることが脳科学の研究で知られています。そして期待の対象に意味や価値を強く感じるほど快感は大きくなります。私はこれを「快感の前払い」と表現しています。

人間が何かを「面白そう」と感じるのはこの期待の快感によって生じるものです。

なお、人間は「期待」の対象が何かを明確に自覚できないこともあります。これは過去の経験から無意識に「期待しやすいもの」を感じとっているからです。

『安心』

「安心」とは期待が満たされることです。不安を解消することとほぼ同じ意味とお考え下さい。

期待とは不安の裏返しです。何かを期待することは「期待が満たされないかもしれない」という不快な緊張状態を生みだします。この緊張状態から解放されたとき「安心」という快感が得られるのです。

「安心」の快感は緊張状態が急激に解放されたり、長く続いた緊張状態から解放されると大きくなる傾向があります。

例外

人や物事が期待に応えても「面白さ」を感じにくいことがあります。なぜなら、人間には特に意識を向けている物事以外を認知しにくくなる傾向があるためです。

例えば、家を綺麗にしてもらうため清掃サービスに期待したとします。家が綺麗になって安心したとき、これを面白いと感じる人は少ないと思います。

これは、期待が満たされて安心した快感よりも部屋が汚いという不快感から解放された快感のほうがはるかに大きいためです。むしろ、この場合には期待が満たされて当然ぐらいに感じているかもしれません。そうなれば安心による快感はほとんど生じません。

逆に、食べたことのない美味しい食べ物を食べて思わず「面白い味」という感想が漏れることもあります。これは、味覚で得た快感よりも未知の味の正体を知りたい知的欲求が上回っているのです。

人間の物事の感じ方とはいい加減なもので、得られた快感の全てを明確に認知できないのです。

「面白くない」とは何か

「面白さ」と「面白くない」を理解することは表裏一体です。なぜ人は「面白くない」と感じるのか考えていきます。

「面白さ」の快感は、何かを「期待」した緊張状態が「安心」し解放されることで生まれると説明しました。

しかし、「期待」の緊張状態が耐えられないほど強く長く続くと、人は「期待」を放棄し忘れることで緊張状態から解放されようとします。「期待」が満たされることを困難に感じ諦めてしまうのです。

これは一種の心理的逃避行動といえます。期待を諦めることで満たされなかったときの不快感を軽減しようとしているのです。

この「期待」を放棄し知的欲求が満たされることを諦めてしまうのが「面白くない」または「つまらない」という状態です。

つまり、「期待」が満たされず損したと感じたとき、人は「面白くない」と感じるのです。そして「期待」が大きいほど、急激に「期待」を裏切られるほど不快感は大きくなります。また、当然に満たされると感じていた「期待」が満たされなかったときも不快感は大きくなります。

知的好奇心

知的欲求がどのように「面白さ」を生み出すのか考えてきました。

人間が「面白さ」を感じるためには知的欲求が刺激されないといけません。そして、知的欲求が刺激されやすい心理状態のことを「知的好奇心(または好奇心)」と呼びます。

ここからは、「面白さ」を感じるために必要な「知的好奇心」について考えています。

知的好奇心の分類の仕方は意見の分かれるところですが、ここでは大きく2種類に分けて考えていきます。

拡散的好奇心

「拡散的好奇心」は知的欲求を刺激するものを広く探そうとする好奇心です。特定の何かを探そうしているわけではなく、ぼんやりと周囲に心のセンサーを働かせているイメージです。

これは無意識に行われるのであり、個人の経験や興味関心に応じて知的欲求を刺激する対象が自動的に認知されます。これを「選択的注意」と呼びます。

選択的注意の詳細を知りたい方は、以下の記事をお読みください。

「拡散的好奇心」は初めて訪れる環境や情報に溢れた雑多な環境で働きやすく、知的欲求を刺激する対象を探し出すことに役立ちます。

また、「拡散的好奇心」は後述する「特殊的好奇心」が強いほど働きにくくなる傾向があります。

特殊的好奇心

「特殊的好奇心(または収束的好奇心)」とは、何らかの対象に集中し理解しようとする知的好奇心です。一般に知的好奇心のイメージはこの「特殊的好奇心」を指す場合が多いと思います。

「拡散的好奇心」と異なり、人間の考える力と強い関係を持ち知的欲求を満たそうと意識的に働きます。

「特殊的好奇心」は理解が極端に簡単なこと、または極端に難解なことには働きにくい傾向があります。瞬時に理解できたり、認識しにくい物事には働きにくいのです。

細分化された特殊的好奇心

一般に知的好奇心は「拡散的好奇心」と「特殊的好奇心」に分けられると説明しました。しかし、人間の知的欲求を満たそうとする認知行動はもっと複雑なものです。

ここからは、私が独自に考えた「細分化された特殊的好奇心」をご紹介します。

学習型好奇心

「学習型好奇心」は意識して情報を集めたり、何かを記憶するときに働く好奇心です。講義を受講したり、英単語を暗記するときなどに働きます。

この好奇心が働いているときに「面白さ」を感じるには、意味を感じられる情報が必要となります。

例えば、既に知っている物事の違う側面を知れたり、役に立ちそうだと感じられる情報です。

雑学や豆知識は「学習型好奇心」を刺激する良い例といえるでしょう。

解決型好奇心

「解決型好奇心」は物事を解決するために働く好奇心です。数学の問題を解いたり、クイズを解いたりするときに働きます。

「解決型好奇心」が働くためには、知的欲求を強く刺激する必要があります。働きにくい代わりに解決できたときに得られる快感も大きいです。

知的好奇心の中で最も持続しにくく、長時間に渡って維持するためには慣れや訓練が必要となります。

鑑賞型好奇心

「鑑賞型好奇心」は「拡散的好奇心」と「特殊的好奇心」の中間のような心理状態です。映画や演奏を鑑賞するときに働きます。

この好奇心が働いているとき視覚や聴覚など感覚が鋭敏になる反面、思考は緩やかとなり自身の存在が希薄となります。

さらに「学習型好奇心」や「解決型好奇心」と比べ状態を持続しやすい傾向があります。そのため「鑑賞型好奇心」を働かせるアニメ、動画、映画、音楽などは長時間に渡り楽しみやすいのです。

「鑑賞型好奇心」は何かに集中している状態ではありますが、些細な事でも「拡散的好奇心」が働いてしまいます。「鑑賞型好奇心」を維持するためには、集中すべき対象以外からの刺激を受けにくい環境を用意する必要があります。

面白さを作るには

「面白さ」を感じるメカニズムについて広く考察してきました。

では、実際に「面白さ」を作り出すためにはどうすれば良いのかまとめていきます。

期待させる

まずは、知的欲求を刺激しなければ何も始まりません。特に「特殊的好奇心」が働くような「期待」を刺激するものが必要です。

魅力的な見た目やキャッチコピーなど、それを体験することで何が得られるのか想像させることが大切となります。

多くの人が理解しやすく期待しやすいものを用意しましょう。

期待に応える

「期待」を刺激したらキチンと「安心」させてあげましょう。期待されている以上のものを用意できなくても構いません。大切なのは期待されていることに漏れなく応えようとすることです。

期待され具合にも差があります。当然に期待されることから、出来れば欲しい程度のものまで様々です。

特に「当然に期待されること」は意外と見落とされがちです。特別な体験を作ろうとするほど「当然」の失われる可能性は高まります。しかし、「当然に期待されること」は応えられないと大きな不快感を与えかねません。優先して応えられるように努めていきたいです。

当然のことから些細なことまで、可能な限り多くの期待に応えようとすることが「面白さ」につながるのです。

上質な「緊張状態」を作る

上質な緊張状態は、知的欲求が適度に満たされないバランスのとれた状態のことです。「面白さを作る」とは「上質な緊張を作ること」といっても過言ではありません。

緊張状態は長く強く続いたものほど「安心」の快感は大きくなると説明しました。しかし、全ての人が長く強い緊張状態を耐えられるわけではありません。

多くの人に「面白い」と感じてもらうためには、集中すれば解けるが、集中しなければ解けない、そんな適度に負荷のかかる緊張状態を作ることが求められます。

なお、昨今人気の高い「死にゲー」はあえて強い緊張状態を作り、プレイヤーに大きな快感を与えている稀有な成功例といえるでしょう。これらは強い緊張状態を求める人達にとって「上質な緊張状態」を作れているのです。

このように「上質な緊張状態」に求められる負荷は、それを体験してもらうターゲット次第で大きく異なるものとなります。

知的好奇心の整理

体験する人に働いている「知的好奇心」を整理することも大切です。

例えば、「解決型好奇心」が強く働いている状態で「鑑賞型好奇心」を必要とするものを与えられても不快になってしまいます。

作り手は常に、そのとき体験する人に働きやすい知的好奇心が何か想像しなくてはなりません。

「知的好奇心のつながり」を意識するのも良いと思います。「学習型好奇心」や「解決型好奇心」ばがり必要な体験では、飽きたり疲れてしまいます。

例えば、「学習型好奇心」で情報を集めてもらい、「解決型好奇心」で情報を元に何かを解決してもらいます。解決後は一旦脳を休めてもらうために「鑑賞型好奇心」が働きやすい体験を用意すると、飽きにくく疲れにくい体験となります。

また、人によって働きやすい好奇心は異なります。作ろうとする体験が、どの好奇心が強く働きやすい人をターゲットにしているか明確にしておくと良いでしょう。

欲張らない

人の認知能力には限界があり、一度に多くのことはできません。作り手の想像以上に体験する人達は不器用なものだと考えるべきです。

一度に多くのことをしてもらおうとしても、それに応えられる人達は限られてしまいます。何か新しいことをしてもらいたいときは、取り組んでいることが終わるまで待つことが大切です。

意図的に「退屈」な状態を作り出すことを意識すると良いでしょう。目の前にやれることが無くなれば自然と次の「期待」が刺激されやすくなります。

面白さに気づくには

「面白さを作る」には「面白さに気づく」力も大切です。

世の中には何にでも興味を持ち、面白そうにしている人達がいます。彼らは人よりも知的好奇心が働きやすいと言えます。では、どうすれば知的好奇心は働きやすくなるのでしょうか。

やってみる

行動することで興味関心が拡がり、「拡散的好奇心」が働きやすくなります。

最初から多くの事に関心を持っている人はいません。どんなことでも良いので、簡単なことから新しく始めてみると良いでしょう。

私の場合は、話題なったアプリやサービスを一度触ってみることを癖にしています。全く興味ないものがほとんどですぐに削除するのですが、内容や仕組みを知るだけでも参考になります。このブログを運営しているもの「やってみる」気持ちから始まった事です。

余裕をもつ

常に気になっていることがある人は、それ以外のことに意識を向けることが難しくなります。日々忙しい人には難しいことかもしれませんが、余裕をもつことは知的好奇心を働かせるために必要なことです。

知識を増やす

やってみることと関連しますが、やはり知識を増やすことが大切です。

好奇心は自分にとって「意味がある」と感じられないと働きにくいものです。そのため、普段から全く関心が無かったり知らない事には働きません。

知識を増やすといっても、いきなり全く関心のないことを知ろうとする必要はありません。知識とは発展させていくものです。普段興味を持っている物事の違う面を見てみるところから始めてみてはいかがでしょうか。

なお、私はニュースで見聞きした知らない言葉をすぐに検索して調べたり、疑問に思ったことをメモにして、週末にまとめることを習慣にしています。メモをまとめるときに再度調べるので関連する知識がメキメキ増えていきます。オススメです。

総括

「面白さ」について考察してきました。「面白さ」を生み出すためには、「面白さに気づく力」も重要となります。

人より多くのことを面白いと感じられる人は、他の人が何も感じない物事から秘めた面白さを引き出せる可能性を持っているのです。

多くの物事から面白さを感じられるようになることは、面白さを生み出す以前にその人自身の日々の生活を豊かにしてくれます。

私は、この世の物事は全て工夫次第で面白くなる可能性を秘めていると思っています。

可能性に気づく参考となるか分かりませんが、以下のような記事もあります。興味がありましたら是非読んでみてください。

あとがき

最後までお読みいただきありがとうございました。この記事の内容は筆者個人の考察に基づいたものです。

ご意見ご感想がありましたらページ下部のコメント欄に是非お書きください。また本記事について各SNSで「#ゲームデザイン思考」をつけて投稿いただけると幸いです。

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